近年、大企業を中心に副業を解禁する会社が増えてきました。
そのため、サラリーマンをしながら副業を行う人も珍しくありません。
副業による収入が増えると支払う税金が高くなるため「節税を目的として副業を法人化したい」考えている方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、副業を法人化して節税するために、抑えておきたいポイントを次の内容で解説します。
- 法人化で節税できる4つの理由
- 副業を法人化するタイミング
- 法人化するメリット・デメリット
- 会社設立が勤務先にばれない方法
- 副業を法人化する7ステップ
会社を設立する際の参考に、ぜひご覧ください。
サラリーマンが副業の法人化で節税できる4つの理由
ここでは、副業を法人化することで節税できる理由について解説します。
- 法人税率は最大23.2%
- 給与所得控除が使える
- 経費として計上できる幅が広がる
- 赤字の繰越期間が10年ある
1つずつ詳しく紹介していきます。
1.法人税率は最大23.2%
法人化で節税になる理由の1つめは、法人税率が個人事業主より低く設定されているため、支払う税金が安くなるという点です。
法人は法人税、個人事業主は所得税を支払います。
法人税の税率は、課税所得800万円以下が15%、800万円を超えると23.2%です。
一方、個人事業主が支払う所得税は、累進課税のため利益が増えると税率が上がります。
課税所得900万円未満で23%、900万円以上が33%です。さらに、住民税10%も課税されます。
法人と個人事業主を比べると、前者のほうがかなり安いです。そのため、法人化すると節税に繋がります。
2.給与所得控除が使える
個人事業主の場合、副業収入は給与ではないため、給与所得控除は使えません。
しかし、法人化して家族に役員報酬を支払えば、自分も家族も給与所得控除ができます。
また、家族に役員報酬を支払うことで収入を分散できるため、所得税を安くできるのです。
3.経費として計上できる幅が広がる
個人事業主の場合、健康診断の費用などを経費にできないことが多いのですが、法人になれば計上できる幅が広がります。
法人は、一定の条件があるものの、家族や自分に支払う役員報酬の経費計上も可能です。
また、役員や自分への退職金も損金として計上できます。退職金は金額大きいため、経費計上できれば、節税効果が大きいのです。
4.赤字の繰越期間が10年ある
決算で赤字が出た場合、翌年の収益から差し引くことを損失繰越しといいます。
個人事業主の損失繰越期間は3年間ですが、法人は10年です。個人事業主に比べて、法人の繰越期間は長く設定されています。
サラリーマンが副業を法人化する2つのタイミング
副業を法人化したいと思っていても「会社を設立するタイミングが分からない」という人もいるでしょう。
ここでは、副業を法人化するタイミングの見極め方を紹介します。ご自分の副業収入と照らし合わせながら、会社設立時期の参考資料としてご覧ください。
1.副業の利益が500万円を超えたとき
個人事業主の場合、所得税を累進課税で徴収されるため、副業の利益が増えると税金の金額も上がり、最高税率は45%です。
しかし、法人税率は最高でも23.2%なので、利益が一定額になった時点で法人化した方が良いと言われています。
具体的には、利益が500万円を超えたときです。
利益が500万円の場合、控除後の課税所得が330万円となり、税率は20%。加えて、住民税が10%課税されるので、30%を税金として納めることになります。
一方、法人税は500万円の税率は15%です。
法人にも法人住民税が課税されますが、税率は個人事業主より低く設定されています。
東京都の場合、都民税と市町村民税を合わせて7%、均等割額が7万円です。法人が支払う税金は、合計22%+7万となります。
なお、法人住民税率や均等割り額は自治体によって異なりますので、お住まいの自治体で調べてみてください。
2.副業の売上高が1,000万円を超えたとき
売上が1,000万円を超えてから2年が経過すると、個人事業主でも消費税の支払義務が発生します。
ところが法人化した場合、2年間は消費税の支払が免除されるという決まりがあります。そのため、このタイミングで会社を設立すると、4年分の消費税を節約可能です。
消費税が免除されると10%の節税に繋がるため、売上が1,000万円を超えたら法人化を検討しても良いでしょう。
副業を法人化する4つのメリット
副業を法人化する場合には、メリットとデメリットがあります。
こちらでは、法人化するメリット4つを紹介します。内容は以下のとおりです。
- 社会的信用を得やすい
- 資金調達をしやすい
- 消費税が2年間免除される
- 助成金を利用しやすい
【メリット1】社会的信用を得やすい
法人は登記簿謄本に会社の情報が設立日や資本金などが記載されているため、個人事業主より信用されやすくなります。
また、法人化するためには時間や費用がかかることも分かっているので、社会的信用が高くなりやすいです。
そのため、決済や契約、売掛金や買掛金の設定などを取り決める際、有利に働くことが多いです。
【メリット2】資金調達をしやすい
法人化により社会的信用度が上がるため、金融機関からの融資を受けやすくなる可能性があります。
融資限度額の引き上げや、法人限定の有利な融資プランを受けられるケースもあるのです。
また、金融機関によっては、個人事業主への融資を受け付けていないことがあり、融資を受けるために法人化するケースもあります。
【メリット3】消費税が2年間免除される
会社設立後2年間は消費税の支払が免除されるため、年間10%の節税につながります。
個人事業主も売上が1,000万円を超えてから2年までは消費税が免除されるため、組み合わせることで長く節税効果を得られます。
【メリット4】助成金を利用しやすい
国や自治体には各種助成金制度がありますが、対象は会社のため個人事業主では利用できません。
法人化して助成金を活用すれば資金に余裕ができるため、事業の安定化というメリットにつながります。
副業を法人化する4つのデメリット
こちらでは、法人化した際に発生するデメリットについて、お伝えします。
- 法人化に費用がかかる
- 決算処理が煩雑になる
- 赤字でも税金を支払う必要がある
- 社会保険に加入する必要がある
【デメリット1】法人化に費用がかかる
会社を設立するためには、登記費用がかかります。
株式会社は約25万円、合同会社は約10万円、そのほかに資本金が必要です。
また、法人設立後には社会保険料、労働保険料の支払も発生します。
無料で法人化ができるわけではないので、注意しましょう。
【デメリット2】決算処理が煩雑になる
個人事業主の場合は、自分で確定申告を行えば良いですが、法人の場合は会社法にしたがって複雑な決算処理を行う必要があります。
決算を正しく行わないと信用にかかわるため、専門の税理士に依頼するのが一般的です。
そのため、社内に経理担当を雇用する費用や、税理士に支払う報酬が発生します。
【デメリット3】赤字でも税金を支払う必要がある
個人事業主の場合、赤字なら所得税や住民税の支払義務はありません。
しかし、法人は赤字でも法人住民税の均等割額を支払う必要があります。
例えば、東京都の均等割額は7万円です。赤字でも最低7万円を支払う必要があるという点は、デメリットです。
【デメリット4】社会保険に加入する必要がある
会社を設立し、従業員を雇い入れた場合には労災保険に加入する必要があります。
さらに勤務時間や勤務日数によっては、雇用保険や社会保険に加入しなくてはなりません。
このように、法人になると保険料の負担が発生する点は、デメリットだといえます。
また、社会保険業務は煩雑で専門知識が必要なため、社会保険労務士に委託するケースが多くなります。
この場合、社会保険労務士に支払う費用も発生するでしょう。
【副業の法人化】会社設立が勤務先にばれない方法
副業を法人化すると、勤務先の会社にばれてしまうのではないか、と心配する人は多いでしょう。
確かに、登記簿や社会保険から会社に分かってしまうことがあります。
そこでこちらでは、会社を設立しても副業の事実が勤務先にばれない方法を紹介します。
法人化する際には、以下の2点に注意して手続きをすすめましょう。
役員報酬をゼロにして社会保険に加入しない
サラリーマンの場合、勤め先の会社で社会保険に加入してることが大半です。
そのため、自分で設立した会社の社会保険に加入してしまうと、重複加入の情報が勤め先に知られてしまう可能性があります。
勤め先に情報を知られないための対策としては、自分の役員報酬をゼロして社会保険に加入しない方法があります。
ただしこの方法では、給与所得控除を利用した節税ができないため、家族に役員になってもらうことが必要です。
役員となったご家族に役員報酬を支払えば、給与所得控除も利用できます。
家族を社長にすれば登記簿に名前が載らない
会社を設立すると、登記簿謄本の代表者欄に自分の名前が記載されます。
登記簿謄本から会社に副業がばれる可能性は極めて低いですが、どうしても心配だという人は、代表者名義を家族の名前で登記しましょう。
例えば、資本金の出資のみ自分が行って株主になるが役員にはならない、ということもできます。
そうすれば、会社の持ち主は自分ですが登記簿謄本に名前が載ることはありません。
副業を法人化する7ステップ
副業の法人化には、様々な工程を踏む必要があります。
こちらでは、会社設立に必要な書類、費用、手順を以下の7ステップで紹介します。
- 会社設立の準備
- 定款を作成する
- 資本金を払い込む
- 公証役場で定款の認証を受ける
- 会社設立登記申請書などを準備する
- 法務局で登記申請を行う
- 会社設立後に各種届出をする
法人化する際の参考資料としてお役立てください。
【法人化ステップ1】会社設立の準備
会社を設立するための準備として、まずは株式会社にするか合同会社にするかを決めます。
設立費用を抑えたい場合や会社運営に参加する人を特定したい場合は、合同会社が良いでしょう。
取引先からの信用を重視する場合や、将来上場することを目標にしている場合は、株式会社がおすすめです。
次に、商号(会社名)や事業目的、資本金額などの基本事項を決定し、会社の印鑑を準備しましょう。
【法人化ステップ2】定款を作成する
会社の基本的な事項をまとめた定款を作成します。
定款に記載する事項には、絶対的記載事項という会社設立にあたって、必ず記載しなければならない事項があり、内容は以下のとおりです。
- 事業目的
- 商号
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
- 発行可能株式総数(定款の認証のみは記載不要)
絶対的記載事項のほかに相対的記載事項、任意的記載事項がありますが、任意的記載事項は記載しなくてもかまいません。
相対的記載事項は、以下の事項について決定するのであれば、記載が必要な事項です。
逆に言えば、決めないのであれば記載する必要はありません。
- 現物出資
- 財産引受
- 発起人の報酬
- 設立費用
- 株式の譲渡制限に関する定め
- 株券発行の定め
- 取締役等の任期の伸長
- 株券発行の定め
【法人化ステップ3】資本金を払い込む
定款に記載された発起人個人の銀行口座を用意し、資本金を振り込みます。
発起人が1人の場合は、預け入れでも問題ありませんが、資本金として用意したお金であることを明確にする必要があります。
そのため、一旦資本金の額以上の額を引き出した後、再度同じ口座に資本金分を入金する必要があります。
発起人が複数いる場合は、必ず振込での支払が必要になります。各発起人が、設立時点で決められた金額以上の金額を、支払ったことを証明するためです。
【法人化ステップ4】公証役場で定款の認証を受ける
株式会社の場合、作成した定款を公証役場で認証を受けなければなりません。その際に5万円の手数料がかかります。
2021年時点では一律5万円ですが、2022年1月 1日から引き下げが決定しており、引き下げ額は以下のとおりです。
- 資本金100万円未満:3万円
- 資本金100万円以上:4万円
合同会社でも定款の作成は必要ですが、認証は必要ありません。
【法人化ステップ5】会社設立登記申請書などを準備する
会社を設立にあたり、法務局で登記をするため以下の書類が必要になります。
- 登記申請書
- 登録免許税の収入印紙を貼り付けた台紙
- 登記すべき事項を保存したCD-R
- 定款
- 取締役の就任承諾書
- 印鑑届出書
- 払込証明書(資本金や出資金の払い込みを証明するもの)
法人の形態や定款の内容によって、追加書類が必要なこともありますので、事前に調べておきましょう。
【法人化ステップ6】法務局で登記申請を行う
会社設立登記の手続きは、原則として代表取締役及び代表社員(合同会社の場合)が行います。
申請方法には以下の3つの方法があります。
- 法務局での登記
- 法務局での登記
- オンラインでの登記
申請後、法務局から補正・修正の指示がなければ登記の完了となります。
【法人化ステップ7】会社設立後に各種届出をする
会社の設立登記が完了したら、税務署や自治体など各機関に届出をする必要があります。
順番に確認していきましょう。
登記完了後に登記事項証明書・印鑑証明書を取得する
登記事項証明書と印鑑証明書は、税務署や自治体に届出を出す際に必ず必要なので、早めに取得しておきましょう。
手数料は以下のとおりです。
- 法務局窓口:登記事項証明書600円 印鑑証明書450円
- オンライン:登記事項証明書480円 印鑑証明書390円
法人設立届出書など税務署関連の手続きを行う
会社の所在地を管轄する税務署に届出をする書類は以下のとおりです。また、法人成立届出書は都道府県、市町村にも提出する必要があります。
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書
- 棚卸資産の評価方法の届出書
- 減価償却資産の償却方法の届出書
社会保険関連の手続きを行う
会社を設立に伴い、健康保険・厚生年金・労働保険への加入手続きが必要です。
従業員を雇用している場合、必ず労災保険に加入する必要があります。また、従業員の勤務時間や日数によっては雇用保険、社会保険への加入も必要です。
役員は労働保険に加入できませんが、社会保険には加入できるので、手続きを忘れないようにしましょう。