「フリーランスと個人事業主は何が違うの?」
「どちらが得なのか知りたい」
「税金や年金に違いはあるのかな」
このような疑問にお答えします。
フリーランスと個人事業主を、同じ意味だと思っている方は多いのではないでしょうか。
確かに重なる部分もありますが、厳密には同じではありません。
そこでこの記事では、以下の内容を詳しく解説していきます。
- フリーランスと個人事業主の違いとは?
- フリーランスが個人事業主になるメリットとデメリット
- 税金と年金・保険について
フリーランスや個人事業主として独立を考えているのであれば、身に付けておくべき知識です。ぜひ、参考にしてみてください。
フリーランスと個人事業主の違いを3つのポイントで解説
こちらでは、フリーランスと個人事業主の違いを3つのポイントに分けて解説します。
- フリーランスは自分の裁量で働く人々の総称
- 個人事業主は開業届を出した人を指す税務上の区分
- 似ている言葉との違い
それぞれの意味を理解して、疑問を解消していきましょう。
1.フリーランスは自分の裁量で働く人々の総称
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会のでは、フリーランスを以下のように定義しています。
特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人
出典:フリーランス白書2020
つまりフリーランスとは、業務委託契約など自分の裁量で働く人々の総称です。主婦や学生であっても、自身のスキルを活かして報酬を得ているのであればフリーランスに該当します。
また、企業と雇用関係にある会社員であっても、就業時間外に業務委託で副業をしている人は「副業系フリーランス」と呼ばれます。
2.個人事業主は開業届を出した人を指す税務上の区分
個人事業主も広義ではフリーランスとなりますが、税法上で明確な定義があります。
個人事業主とは「継続して事業を行う個人」であり、税務署に開業届を提出した人を指す名称です。
そのため、手続きしていないフリーランスは個人事業主ではありません。
「個人」という響きから、ひとりで事業を行っているイメージがあるかもしれませんが、従業員を雇うことも可能です。
法人を設立していなければ、従業員がいても税務上は個人事業主という扱いになります。
3.似ている言葉との違い
フリーランスや個人事業主と混同されやすい言葉として「自営業」と「ノマドワーカー」があります。それぞれの意味は、以下の通りです。
自営業
自営業とは、文字通り「自ら事業を営むこと」です。そのため個人事業主はもちろん、法人を設立した会社経営者も自営業に含まれます。
その他にも農家や漁師など、業種や形態を問わず、自身で事業を営んでいる人はすべて自営業だと言えます。
ノマドワーカー
ノマドワーカーは「時間や場所に縛られず働く人」を指します。
フリーランスにもノマドワーカーは多いです。しかし、必ずしも「フリーランス=ノマドワーカー」ではありません。たとえばオフィスに常駐して働いているエンジニアなど、働く場所が決まっている場合もあるためです。
一方で会社員であっても、働く場所や時間を自由に選べるのであれば、ノマドワーカーに該当します。
【注意】フリーランスの開業届の提出は義務
開業届は所得税法上で「事業を開始した日から1ヵ月以内に所轄の税務署への提出」が義務付けられています。
しかし、所得税法では、開業届の提出義務違反に対しての罰則を定めていません。そのため、提出しなくても問題ないと誤った認識をしている人も少なくありません。
罰則がないとはいえ、個人で事業を継続して一定の報酬を得ているのであれば、きちんと提出をしましょう。開業から1ヶ月を経過していても、税務署から開業届の受理を拒否されることはありません。
フリーランスが個人事業主になる4つのメリット
フリーランスが個人事業主になると、主に4つのメリットがあります。
- 青色申告で節税効果が見込める
- 家族に支払った給与も経費に計上できる
- 赤字を最大3年間繰り越しできる
- 屋号で銀行口座を開設できる
順番に内容を見ていきましょう。
1.青色申告で節税効果が見込める
確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。開業届を提出して個人事業主になると、節税効果が見込める青色申告が選択できます。
青色申告の大きな利点が、青色申告特別控除です。条件はありますが、最大65万円を所得金額から控除できます。所得税や住民税の計算における課税対象の金額が安くなることで、節税効果が見込める仕組みです。
ただし青色申告をするためには、開業届だけでなく「青色申告承認申請書」の提出も必須です。原則として開業届を出してから2ヶ月以内が提出期限なので、一緒に提出することを推奨します。
2.家族に支払った給与も経費に計上できる
個人事業主になると、家族に支払った給与も経費に計上できます。白色申告の場合でも専従者控除は認められていますが、最大86万円までと上限が決まっています。
しかし青色申告を選択して、家族を青色事業専従者とすれば、上限なく給与を全額「経費」として扱えます。その結果、より大きな節税効果が期待できます。
3.赤字を最大3年間繰り越しできる
個人事業主として青色申告をしていれば、決算において赤字となった場合、赤字額を翌年以降3年間に繰り越すことが可能です。
繰り越した赤字は、黒字になった年の利益と相殺できます。つまり所得を減少させ、黒字になった年の所得税額を節税できるメリットがあります。
4.屋号で銀行口座を開設できる
個人事業主になると、屋号で銀行口座を開設できます。個人名義の口座と比べて、屋号付き口座は事業の信頼性が向上します。
たとえばECサイトの運営など、購入者から代金を直接振り込んでもらうビジネスをしていたとします。顧客からすれば、個人名義の口座よりも屋号付き口座の方が安心感があるため、販売機会を逃しません。
フリーランスが個人事業主になる3つのデメリット
フリーランスが個人事業主になると、3つのメリットも存在します。
- 青色申告を選択すると手間がかかる
- 失業手当が受けらない
- 扶養から外される可能性がある
トラブルを避けるためにも、事前に確認しておきましょう。
1.青色申告を選択すると手間がかかる
節税効果が見込める青色申告ですが、65万円の控除を受けるには「単式簿記」と「複式簿記」という2種類の帳簿への記入が必要です。
特に「複式簿記」は慣れていないと難しく、記入は手間がかかります。節税のためとはいえ、事務作業に費やす時間が増えるのはデメリットです。
ただし、近年では簡単に帳簿が記入できる青色申告用の会計ソフトも豊富なので、手間を書けたくない場合は利用を検討してみてください。
2.失業手当が受けらない
会社員が雇用保険に加入していると、失業期間中はハローワークで手続きをすれば失業手当を一定期間受けられます。
ところが、個人事業主として事業を開始した場合、給付を受けられなくなる可能性が高いです。給付の条件には「本人に再就職する意思と能力があること」という項目があることから、開業した時点で再就職の意思がないと判断されるためです。
個人事業主になるのは、失業手当の給付期間が終わってからにするのが無難です。
3.扶養から外される可能性がある
扶養には「税法上の扶養」「健康保険上の扶養」という2種類があります。税法上の扶養については、年間合計所得が48万円以下であれば配偶者控除、133万円以下であれば配偶者特別控除の範囲になります。
健康保険上の扶養は、所得が130万円以下であれば外れません。ただし、健康保険組合によっては所得以外にも扶養の加盟条件を決めている場合があります。個人事業主は扶養に入れないと決めているケースもあるので、必ず事前に確認してください。
フリーランス・個人事業主が納めるべき税金4種類
法人を設立していないのであれば、フリーランスと個人事業主の税金に違いはありません。こちらでは、納めるべき税金4種類を解説していきます。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
それぞれ詳しく確認していきましょう。
1.所得税
所得税は、1月1日から12月31日までの1年間に事業で得た所得に対して課せられる税金です。所得とは「売上から経費や控除などを引いた利益」を指します。翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告を行い、納税をします。
所得税は累進課税が採用されているので、所得額が多ければ多いほど税率が上がります。税率については、以下の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000~ 194万9,000円 |
5% | 0円 |
195万~ 329万9,000円 |
10% | 9万7,500円 |
330万~ 694万9,000円 |
20% | 42万7,500円 |
695万~ 899万9,000円 |
23% | 63万6,000円 |
900万~ 1,799万9,000円 |
33% | 153万6,000円 |
1,800万~ 3,999万9,000円 |
40% | 279万6,000円 |
4,000万円~ | 45% | 479万6,000円 |
出典:国税庁「所得税の税率」
所得額によって税率だけでなく控除額も上がりますが、所得税はフリーランス・個人事業主にとって最も負担の大きい税金です。
2.住民税
住民税は、住んでいる地域に支払う税金です。前年度の所得に応じて課税される所得割と、所得金額に関係なく定額で課税される均等割を合算したものです。
確定申告で提出されたデータを基に市区町村が計算をして、6月中頃に「納税額の通知書」が送られてきます。年に4回の分割払いか、一括払いで納税します。
3.個人事業税
個人事業税は地方税のひとつで、都道府県に対して納付します。納付時期は、8月末日と11月末日の2回に分けられます。
課税される対象は、原則として「都道府県内で法定業種に当てはまる事業を営み、290万円を超える所得を得た個人」です。法定業種には70種類があり、区分によって税率は異なります。詳しくは東京都主税局のホームページから確認してみてください。
4.消費税
消費税は原則として、基準期間(前々年)の課税売上が1,000万円を超えた場合にのみ課される税金です。ただし、開業から2年以内であっても、特定期間(前年の1月1日~6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は課税されます。
フリーランス・個人事業主の保険と年金
税金と同様に、法人を設立していないのであれば、フリーランスと個人事業主の保険と年金にも違いはありません。自身の生活や老後に影響する内容なので、事前に把握しておきましょう。
1.保険は「国民健康保険へ切り替え」もしくは「任意継続」
日本には「国民皆保険制度」があり、すべての国民は公的医療保険に加入する必要があります。
会社員からフリーランス・個人事業主になった場合は、国民健康保険に切り替えるのが一般的です。切り替えをするためには、住んでいる地域の区役所で手続きをしてください。保険料は前年度の年収によって決まります。
もしくは、会社員時代の健康保険を任意継続も可能です。ただし会社員時代は企業と折半していた保険料を、全額自分で払うことになります。
2.年金は「国民年金」へ加入
会社員からフリーランス・個人事業主になると、国民年金への加入手続きを行います。手続きは、原則として退職から14日以内と定められています。
保険料は定額で、2021年度は月額1万6,610円です。独立直後などで保険料の支払いが難しい場合は、保険料免除や猶予の制度を利用できます。
国民年金は会社員が加入する厚生年金と比べると、将来受け取れる年金が少額になります。しかし、個人型確定拠出年金(iDeCo)や国民年金基金に加入することで、将来受け取れる年金額を増やすことが可能です。